取材日:2018/11/06
私の好きな本は渡辺京二の『黒船前夜~ロシア・アイヌ・日本の三国志〜』と『逝きし世の面影』です。
▽『黒船前夜~ロシア・アイヌ・日本の三国志〜』という本
「黒船」とは1853年にペリーが今の神奈川県浦賀にやってきた際に率いていた艦船をそう呼んでいるのですが、その黒船来航前夜なのでペリーが日本に来る以前についての本です。
実はペリーがやってくる前に日本はロシアとの外交をかなり重ねていました。ロシアは日本に開国を迫っていましたが、日本はそれを拒絶し、その間にペリーが来たことで開国を半ば強制的にすることになりました。ロシアは大砲を後ろに控えて強引に開国を求めたわけではなく、外交的な儀礼に則って交流を求めていました。
もし、ロシアと日本が交流を始めていたら、その日本とロシアのやり方に従ってアメリカやフランスも入って来ていたのではないか、もしそうであれば黒船のような軍事力を背景にした開国の仕方ではないため、日本が現在行なっている様な欧米諸国との外交のあり方も変わっていたのではないか、ということをこの本は示唆しています。
ペリー来航をきっかけにアメリカとの外交が開始され、日米和親条約(別名:神奈川条約)というアメリカに圧倒的な優位な形で不平等な条約を結ばされます。
そこから日本は国際社会に入っていき、今日に至るわけです。もしロシアと対等な立場で関係を結んだら対等な立場で日本は国際社会に入っていったのではなかろうか、今とは異なる近代化があり得たのではないかということを著者の渡辺京二は考え、当時のロシアと日本の外交の様子を描いています。
ロシアは日本の北に位置しているので、蝦夷地(今の北海道)がこの本の主な舞台になるのですが、その蝦夷地には昔からアイヌが暮らしていました。日本とロシアとの関わりはアイヌが住んでいた蝦夷地を挟んで行われていたため、アイヌの人たちがそこにどう関わっていったのか、日本とアイヌとの関係、ロシアとアイヌとの関係もこの本では描かれています。
結果的に日本はアイヌの大地であった蝦夷地を日本の領土に編入し、そしてアイヌを日本人にするという植民地化政策をしていきました。アイヌは日本に植民地住民として編入され、艱難辛苦を経験していくことになります。もっとも単純に日本がアイヌの抵抗を押し切って征服したというのではなく、実は様々なやりとりがあったということもこの本には描かれています。
現在のアメリカを通じた国際社会と日本のつながりではなく、ロシアの方から国際社会に繋がっていたらどう歴史は変わっていたのだろうかということを想像させる本です。豊富な資料に基づいて、ロシアとの関係、アイヌとの関係が実証的に描かれているおすすめの本です。
▽『黒船前夜~ロシア・アイヌ・日本の三国志〜』が今の研究に与える影響はあるか
特にアイヌの存在ですが、国際法の研究においては、マジョリティの視点ではなくて、マイノリティの視点に立って世界の風景を見るとどう見えるかというところが重要です。
この本では、アイヌの視点から見るとどう歴史や国際関係が見えるのかが分かってきます。多数派ではないところに視点を定めると世界がどう見えるのかという事を考えさせられるため、私の研究の基本的なスタンスにもすごく合っている一冊です。
▽この本はどのような分野に興味がある学生によんでほしいか
『黒船前夜~ロシア・アイヌ・日本の三国志〜』は歴史に関心がある人におすすめです。日本の近代化、マイノリティの問題、先住民族の問題に関心がある人にもおすすめしますね。
近代の中で日本という国ができあがりますが、日本が国際法の世界に入ったのは19世紀に入ってからです。日本という国家が国際的に認知されたのは19世紀半ばになってからです。
国際法上の国家は国境を持たなければいけません。でも、それまでの日本には国境がなかった。東アジアに国境という概念がなかったからです。
そこで国境を設けなければいけなくなったのが19世紀半ばになってからなのです。国家にならなければいけないと日本が感じる直接の契機になったのが黒船来航となる訳ですが、その前にロシアから日本に交流を申し込んできました。
日本からすれば安全保上の脅威だと考えたので幕府は蝦夷地を直轄領にしてしまいました。それまで蝦夷地のほとんどはアイヌの大地であって、松前藩が今の函館あたりにあった程度でした。幕府にとってはとりわけて重要な土地ではなかったかもしれません。
しかしロシアとの交渉下において日本の領域をはっきりさせなければいけなくなり、領域が明確化されていったわけです。日本の安全保障に関心がある人にも結構おもしろいのではないのかなと思います。
〇阿部 浩己(あべ こうき)国際学科教授
難民の国際的保護,人権の国際的保障,国際法における植民地主義
早稲田大学法学部卒業後、同大学大学院法学研究科博士課程修了・博士後期課程単位取得満期退学。米バージニア大学法科大学院修了。1990年から3年間富山国際大学人文学部で専任講師。1993年から神奈川大学法学部で助教授を6年間、教授を5年間歴任。2004年から14年間大学院法務研究科教授として教鞭をとり、その間、カナダ・ヨーク大学難民学センターで客員研究員を務め、早稲田大学で博士(法学)を取得。2018年に明治学院大学国際学科に着任。法務省難民審査参与員および川崎市人権施策推進協議会ヘイトスピーチ部会長。
主な著書に『国際法を物語る』『国際法の暴力超えて』『国際法の人権化』『無国籍の情景』『国際人権法を地域社会に生かす』『国際社会における人権』『国際人権の地平』『人権の国際化』『抗う思想/平和を創る力』『戦争の克服』(共著)『テキストブック国際人権法』(共著)などがある。