▽現在の研究分野は何ですか?
国際法という領域の中で特に人権と難民について研究しています。
人権に関しては、国際連合(United Nations)がどのように世界の人たちの人権を守ろうとしているのかという点を「人権保障システム」という国連の制度と関連付けて研究しています。
一方、難民問題においては難民条約が各国の難民認定の基準に使われている中で、この条約が具体的にどう機能しているかを研究しています。
▽この分野の魅力は何ですか?
国際法の魅力は、グローバルな視点で物事を見られることです。とりわけ人権問題は、世界各地で苦しい状況に陥っている人たちがその状況をなんとかしようとする中で顕在化するものであり、「様々な人が世界に生きているのだ」という多様性を実感できるダイナミズムがあります。
難民も同じように大変な目に遭って国外に避難する人たちのことですが、難民となった人たちを保護しようとする人たちも大勢います。やはりグローバルな視点で物事を見ることが出来るという点と、世界の様々な状況や立場で活動をしている人たちと知り合うことができるのが一番の魅力だと思います。
▽国際法に出会ったきっかけは何ですか?
私は新聞を読んでいたりしたので国際的なニュースは学部生の時からかなり関心を持っていました。また英語のクラブに入っていたのもあって英字新聞も読んでいました。そういった中で国際法に出会ったということでしょうか。
▽この分野を選んだ理由は何ですか?
法学部生として憲法や民法などの国内法を中心に学んでいましたが、国際法は国内法と比べ異なった魅力があります。国内法はどうしても1つの国の中しか見ない傾向にありますが、一方で、国際法はグローバルに物事を見られるので、より学問的広がりを感じたのです。自分の心も解放されていく感じがありました。
それに国際法は国際政治と切り離すことができないため、どろどろした醜い部分もあります。それもまた人間的な魅力で興味深いと思い、この領域にのめり込むことになりました。
私が大学院に入った1980年代前半の国際法は、まだ国家間の関係をどう規律するかということだけを考えていて、人権問題についてはほとんど言及していませんでした。あまり人権問題を研究している人がいなかったのでこれはチャンスだと思いました。難民問題をやっている人も少なかったのです。
人のやらないところを研究していくという、良く言えばサバイバルストラテジー、悪く言えば姑息な手段でこの領域を選んだところもあります。
でも、やればやるほど面白くなっていき、結果的にこの領域は私の性分にあっているのだと、少しずつ確信できるようになりました。今では人権は主流化されて国際法の最大のテーマになりましたが、当時はそんな時代が来るとは思いもよりませんでした。
▽研究者になった理由を教えてください。
1981年に大学を出た頃の日本は右肩上がりで経済が成長していた時期で、社会がますます浮かれていく状況でした。私自身は小さい時から呼吸器に疾患を抱えていて身体が弱かったのですが、男性は「24時間働けますか」と真顔で問われるほど長時間で激しい労働を求められていた時代です。学生時代の男友だちの多くは、卒業後、当然のようにそうした労働環境に入っていきました。私は身体に自信がなかったので皆と同じように役所や企業に入り仕事をすることは無理だと思っていました。司法試験に人生をかけた友人もいますが、仮にその超難関試験に運良く通ったとしても、裁判官や弁護士として働く体力に自信がなかったので、それもダメ。「それじゃあなにができるのか」と考えて、研究者なら自分の身体と相談しながらやっていける仕事なのではないかと思ったのです。机に座ることに、それほど抵抗がなかったこともあるのですが。