▽現在の研究分野は何ですか?

私の専門分野は日本政治思想史という分野です。研究テーマによって研究の方法なども違ってくるのですが、私が主に研究しているのは、戦後の日本の政治史と思想史の関連性について研究しています。

 

 

▽この研究分野を志した理由は何ですか?

私は韓国出身なのですが、韓国の大学にいた学部生時代に元々興味があったのは、西洋の政治思想史でした。政治思想史を勉強していく中で、研究テーマとしてナショナリズム(日本では「国民主義」や「民族主義」と訳される)や近代の政治思想により深く興味を持ちました。

その時偶然出会った文献が、日本人の知識人である丸山眞男(1914-1996)が書いた論文「国民主義の『前期的』形成」(1944年)でした。その論文は、歴史的な文脈の中における思想の展開を取り上げたもので、西洋の哲学史や思想史を勉強していた時とは少し違う、より身近なものに感じました。

それは、理論上の抽象的な話ではなく、幕末から明治に至るまでの実際の社会動向のなかで現れたナショナリズムなどリアリティを持った議論でした。そこに惹かれて今に至っています。

 

 

▽学生時代はどんな学生でしたか?

私はあまり勉強が好きな学生ではありませんでした。1、2年生の頃は授業には半分くらいしか出ていませんでした。ですので、最初は今の研究者の様な仕事とは全然違う仕事をしようと思っていました。

私は今でも映画を見ることが好きなのですが、学部生の頃に大学卒業後は韓国にある映画の専門学校(期間的には大学院と同じくらいである)に進学しようと思っていました。そのため、専門学校の入試の準備などもしていました。

あまり勉強に興味はなかったのですが、大学3年生の時に非常にいい先生に出会い、その先生の授業が西洋の近代政治思想史に関する授業でした。その授業で初めて勉強を面白いと感じ、それをきっかけに本を真剣に読んだり、図書館に行って調べたりしました。

 

 

▽研究分野の魅力は何ですか?

私の場合は主に読んでいる文献は、主として1940年代から60、70年代くらいまでのものを見ていますので、過去であっても、割と近い過去なのです。例えば100年前や200年前、あるいは1000年前の歴史を研究している人々とは感覚が違い、近い過去っていうのは比較的身近に感じられる部分もあって、一方ですごく古く感じられる部分もあるのです。

近い過去と現在との間の連続性と、切れているところや変わったところなどの断絶面(廃絶された点、淘汰された点)について主に見ています。だからある意味で、今の私たちの生き方や、今の社会の在り方が近い過去からどのように変わったのか、あるいはどのように繋がっているのか、あるいはどのようなものであり得たのかといった、近い過去の持っていた様々な可能性を究明することができます。その点が魅力です。

また、逆に今の私たちの生き方や社会の在り方を、もっと相対化して考えることができます。私は主として過去のことを見ていますが、それと同時に過去を「鏡」として使って、今の私たちが置かれている環境や状況をもう一度振り返ってみる。そのような研究とも言えるのです。

 

 

▽学生の間に読むべきオススメの1冊を教えてください。

丸山眞男のセレクション『政治の世界 他十編』(松本礼二編注、岩波文庫、2014年)です。少し難しいかもしれませんが、丸山眞男が政治について書いた、エッセイや文章を集めた本です。

(取材日:2018/11/06)

 

 

〇趙 星銀(チョ サンウン)国際学科専任講師

戦後日本を中心とした政治思想史

東京大学法学政治学研究科博士課程修了。法学博士。2017年から明治学院大学国際学部国際学科専任講師。

著書には『「大衆」と「市民」の戦後思想ーー藤田省三と松下圭一』、訳書に藤田省三著『(韓国語版)精神史的考察』がある。論文には『丸山眞男と藤田省三ーー認識するということの意味ーー』や『「高度成長」反対ーー藤田省三と「一九六〇年」以後の時代ーー』がある。