▽大学卒業後はどのような進路に進まれたのですか?

 私は、一生経済的に自立していたかったので、長く続けられる仕事に就きたいと思い、就活最初の1年目に、様々な大手マスコミを受けましたが、全て落ちてしまいました。そのため、就職留年をした次の年は、公務員になろうと考え、東京都庁を始めとする多くの公務員試験を受けました。そのような中で、当時、公務員試験と同じような試験を実施していた、某通信会社の採用試験を受け、採用されたので、その会社に就職をしました。その会社で働くうち、専門的な知識や技術を身につけて、私は○○(職業名が入る)ですと、何か名乗れる人になりたいと思うようになりました。そこで思いだしたのが、学部生のときに出会った社会学で、その中のジェンダーという分野でした。その後、会社と交渉して、2年間休職し、留学をすることになりました。休職を認めてくれた会社には今も感謝しています。

 留学先は、ワシントン州立大学の社会学部で、ジェンダーについて研究しているAmy Wharton先生の下で研究を始めました。ワシントン州立大学では、修士課程と、Ph.D.コース(博士課程)が分かれていたので、2年間の留学で修士を取った後、Ph.D.コースに進むことを決め、会社を退職し、大学に戻りました。

 修士を取得してからPh.D.を取るまで6年掛かりました。6年もかかった理由は大きく4つあります。

 1つ目は、6年間のうちの1年間は病気でほとんど勉強ができない状況だったからです。

 2つ目は、私が採用した博士論文の作成方法が、時間を必要とする方法だったからです。博士論文の書き方も、様々な方法があります。例えば、アメリカでは国が収集して、だれもが利用できるデータベースが多くあり、それを自分独自の視点で分析をし、分析結果を博士論文にする方法があります。この方法だと、データを集める時間や手間が省けます。しかし、私はこの方法ではなく、自分でデータを集める方法を採用しました。博士候補生(Ph. D. candidate)になった後に、1年間また日本に戻り、東京大学社会学研究所に客員研究員という資格で所属し、2つの企業のアンケート調査を実施しました。もし、この方法ではなく、前者の方法で博士論文を書いていたら、2年くらいは短縮したと思います。

 3つ目は、アメリカでは、博士論文を書ける博士候補生になるまでが非常に大変だからです。私の大学院だとそのための試験を2回しか受けられない上に、2回とも落ちたら、博士論文を書く機会は二度とありません。そのため、学生は試験に向けた準備を必死に行います。例えば、小さいペーパーを、何回も何回も書いて先生に見てもらいます。試験に合格し、博士候補生になれ、「博士論文書いていいよ。」と言われた時、多くの学生は非常に疲弊していて、回復するのに時間がかかります。実際に、私も回復に1年かかりました。

 4つ目は、アメリカの大学院の独自のシステムのためです。アメリカの大学院は、経済的に余裕がない人でも大学院に進学できるように、週に20時間働く代わりに、授業料のほとんどを免除にします。具体的に、週に20時間というと、1日4時間程度、学部から指名された教授の授業の準備や、研究の準備などの仕事をやらなければいけません。その以外の余った時間で自分の勉強をやらなければいけないため、進み方が非常にスローになってしまいます。このような、重荷があって時間がかかるのだと思います。

 そして、私はこのような流れで、研究職に進みました。

 

 

▽この研究分野を志した理由は何ですか?

 先程も紹介したのですが、ジェンダーについて考えるようになったきっかけは、母親が、私と弟を性別によって、異なった扱いをした事を不条理に感じ、また、学校の先生や周りの友達と、女性の生き方についての考え方がしっくり来なかった上、自分と同じ考えの人になかなか出会えなかったため、非常に孤独感があったからです。私は、大学生になり、ナンシー・チョドロウなどの本を通じて、初めて、私が興味を持っている分野が「ジェンダー」というものであることを知りました。対照的に、明治学院大学では国際学部でも、社会学部でもジェンダーに関する科目があるので、今の学生さんは、ジェンダーについて学ぼうと思えば、私の頃よりは学ぶ機会があり、羨ましいなと思います。

 

 

学生の間に読むべきオススメの1冊

 すごく考えたのですが、「読むべき」本として、紹介したい本はありません。それは、私が研究者だからだと思います。なぜなら、私が学部生の時で会い、社会学という分野を知るきっかけになった『The Reproduction of Mothering』(ナンシー・チョドロウ、1978)という本は、当時の私のバイブルだったのですが、その後、他の多くの本を読むと、この本の弱点や、問題点などが見えてきました。しかし、社会のジェンダーの仕組みにとらわれず、自分らしい生き方を模索した人の本としては、上川あやさんの『変えてゆく勇気─「性同一障害」の私から』(2007)がお勧めです。この本は私の「ジェンダー論」でも一部をディスカッションで取り上げています。

(取材日:2019/05/17)

 

 

〇合場 敬子 (あいば けいこ) 国際キャリア学科教授

女子高校生の身体とジェンダー/女子プロレスラーの身体とジェンダー/身体からの女性のエンパワーメント

東京外国語大学外国語学部中国語卒業後、ワシントン州立大学大学院 社会学研究科博士課程修了。社会学博士。ブリストル大学社会学部客員研究員等を経て2007年に明治学院大学国際学部国際学科に着任。

著書に『女子プロレスラーの身体とジェンダー:規範的「女らしさ」を超えて』(2011)『Transformed Bodies and Gender: Experiences of Women Pro Wrestlers in Japan 』(2017)など。