取材日:2019/01/17

 

▽国際協力に興味を持ったきっかけは何ですか。

 小学校低学年のある日に、アフリカの様子を映したドキュメンタリーを見たことから始
まります。4,5歳の小さな子が裸でポツンと砂漠にいた光景を目にし、衝撃を受けました。
私は日本で生まれ、家族がいて、家があり、ご飯を食べることができ、学校に行ける環境
であった一方で、砂漠に一人、家族もいない、ご飯もない環境にいる女の子がいる現状は
どうしてなのかと自問しました。「もし私がサハラ砂漠に生まれていたら同じ状況になっ
ていたのか。同じ地球上でなぜこんなにも差があるのだろうか」と言う疑問から始まり、
私に何ができるのかと考えるようになりました。また、世界中から両親の友人が出入りす
る家庭環境であったため、自然と海外に興味を持つとともに、途上国と先進国について考
えていました。

 

▽学生時代はどのようにして過ごしましたか。

 国際連合は憧れの機関であったため、大学一年次にボランティアセンター主催100時間インターンシップをFAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)日本事務所で経験しました。日本事務所でのインターンシップは、FAOの素晴らしい活動を知ることはできましたが、現場で実際に現地の人と触れ合いながら働きたいと実感し、そこで改めて自分は現場に入りたいと強く思ったことを覚えています。
 学部時代のゼミは南北問題の授業を担当されていた、勝俣誠先生の地球共生を探究するゼミに所属しました。ゼミ合宿は、騒々しい東京から離れた田舎の山でゆったりと自然に触れて農作業を行い、自給自足や村社会を考える機会となりました。郊外実習ではセネガルに行き、現地NGOの草の根活動を学んだり、セネガルの村人に対してインタビューを実施するという貴重な体験ができたことは、その後の進路に影響を与えることになりました。
 昔から、正月に家族とともに近くの神社へ初詣に行くと、「世界が平和になりますように」と必ず願うほど、世界平和を築くにはどうすればいいのかと漠然と考えていました。恵まれていることに、明学には国際平和研究所があり、そこで開講している広島・長崎講座という公開講座がありました。一般公開されている講座で、学生だけではなく一般の関心のある方々と共に、平和について知識を深めていました。当時は答えのない回答や紛争が続いている現状に苛立ちを感じることもありましたが、少しずつ自分ができることは何かと常に問いかけていた記憶があります。
 また、英語の教員免許を取得したかったため、英文科の授業を受け、3年生からは白金と横浜の往復を続け、卒業時には友人の倍以上の単位を取得していました。国際学科と英文科の授業、それから教職科目に加えて体育会剣道部にも所属していたため、毎日をこなすことで精一杯の学生生活でした。

 

 

▽今の活動に至った経緯を教えてください。

 Sustainability Asiaという団体を創設し、ソーシャルビジネス等の活動を始めるきっかけとなったことは、以前に、西アフリカのベナン共和国で生活していたことです。大使館の草の根無償資金協力を担当していた頃、身近にお金を必要としている友人がおり、「仕事を始めたいからお金を貸してくれ」と言われたことがあります。ベナンでは貸した=あげた(返ってくることは期待できない)と思わない限り投資はできないと判断しました。大変心苦しい決断でしたが、必要投資額が大きかったこともあり、断りました。そのことがずっと心に引っかかっていたこと、それから仕事で物や建物を付与していたことに物足りなさを感じていたことから、現地の人の手で始まるビジネス/ソーシャルビジネスに興味を持ち始めました。そこで、大使館職員を辞め、大学院に進学し、持続可能な経済開発を学び、卒業プロジェクトの発展が今のSustainability Asiaという団体に繋がっています。

 

(2010年青年海外協力隊ベナン共和国パラクー市にて女性グループ向けに衛生啓発活動を行なっている様子)

 

▽今後の目標は何ですか。

 Sustainability Asiaの目標は、SDGsの12番目ゴール「持続可能な生産と消費 (責任ある生産と消費)」です。生産面では農家さんのエンパワーメント、収入向上を多方面からサポートをする一方、消費面では消費者にコーヒー農家で生産現場の体験から背景を学ぶ機会を提供し、現在の消費社会について考えてもらう活動を行なっています。特に日本はモノでありふれていて、スーパーに行けば食材は陳列されてあり、消費者はそこから選ぶだけなので、実際にそれがどのような生産過程を経ているのか分からないという人も多いと思います。誰がどのように作っているのか、背景には何があるのか消費者の皆さんに知ってもらいたいです。

 フェアトレードという言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、フェアトレードは特別なことではないと私は思います。フェア(公正)にトレード(貿易)することで、働いたことに対して公正に支払われる、当たり前のことなのです。私たち消費者は毎回の買い物は(企業に対して)投票しているという意味を持ちます。消費者が買う=(イコール)その会社は儲かり、大量生産・大量消費へと繋がると思います。消費者が支持しなければ会社は拡大しません。私は消費者が変われば社会が変わると信じています。私たち消費者と生産者が共に歩んでいくためには、継続してモノを得られるよう考えなければいけません。「買い物が一票」であること、少しでも意識して生活したいと思います。

 また、オーガニックマークにも疑問に思います。オーガニックマークで消費者が安心して買うことができることは確かです。しかし、フィリピンの農家によってはそのマーク取得のために、毎年高額なお金を払い、やっと利益になるかどうかという生活をしています。通常の感覚でいうと、農薬を使っている農家こそ、その農薬は人体に影響がないという証明を得る必要があり、無農薬のものは今のように高額を払いその証明の必要がないのではないかと思っています。なので、オーガニックマークよりも農薬マークが必要なのではないかと私は考えます。
 Sustainability Asiaでは、コーヒー産業の中で最も厳しい環境に置かれているコーヒー農
家の生計向上のため、通常大量に廃棄されているコーヒーの実の皮(カスカラ)を利用して商品を作っています。現在はカスカラの存在が周知されていませんが、実はカスカラには栄養があり、抗酸化作用が強いのです。しかし、カスカラは酸が強いため、川に流れてしまうと汚染に繋がります。カスカラを有効活用することで、農家の収入向上以外にも環境にも優しい活動に繋がりプラス要因ばかりなので、今後着目されるであろうと確信しております。

 

▽国際協力を通して学んだことは何ですか。

 国際協力と言われれば、途上国へ何かをしてあげるというイメージでしょう。私も青年海外協力隊の時は少なからずその思いはありました。しかし、途上国で生活していると、自分が助けられることが多いように感じます。アフリカに4年間、フィリピンに2年間住んでいた中で、現地の人から学んだことがたくさんありました。今まで様々な形で国際協力に携わってきておりますが、現地の人々からは生活の知恵や生き方について学ぶことが多いです。日本の方が経済的には豊かと言えるかもしれませんが、幸福の豊かさには経済を超えた生き方の豊かさがあるように思います。今後もその土地の文化を大切にして途上国から学び続けたいと思っています。

 

 

 

 

 

(2017年フィリピン共和国サガダ町にて
農家さんとコーヒー豆の作業を行なっている様子)

 

▽学生へのメッセージをお願いします。

 10年ぶりに明治学院大学に来て、色々なシステムを知りましたが、今の明学生は私がいた頃よりも何倍もの機会があり羨ましく思いました。大学にある様々な機会にチャレンジし、最大限活用すると良いと思います。大学時代の自由な時間は限られているので、アルバイトに時間を費やすのではなく、様々な勉強や講演会、旅などをし、視野を広げて下さい。今の時代はネットで沢山の情報が得られるので、うまく活用し、アンテナを常に張り巡らせ、経験を積んでほしいです。最後に、大学という学びの場にいる環境を活かし、興味があるテーマを掘り下げ、熟考する時間を大切にして下さい。

(2019年1月)

 

プロフィール
 大学卒業後青年海外協力隊を経て商社へ就職。その後、大使館勤務から大学院進学。Sustainability Asiaを共同創設し、活動。今後はブルンジ国連食糧計画で勤務。

【Sustainability Asia ホームページ】
https://sustainability-asia-org.webnode.com/

【Sustainability Asia Face Book】
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