▽現在の研究内容は何ですか?
 現在は「社会的企業論」というテーマで、社会的資本やソーシャルネットワークについて研究しています。社会的企業というのは、貧困問題や雇用問題、差別、ジェンダーなど様々な社会問題を解決している企業を指します。その中には、ビジネスとして社会的な問題を解決している営利企業や、非営利企業であるNPOも含まれています。
私はどちらかというと、営利企業のアントラプレナー(起業家)に注目をしています。「なぜこの人はこの企業を起こしたのか?」「どのようなモチベーションで仕事や活動をしているのか?」「どのような背景で起業家は生きてきたのか?」などに興味を持っています。
 「社会的企業論」というアカデミックな学問が生まれたのは、ヨーロッパです。そのため、もちろんアジアでも社会的な問題はありますが、研究はあまり進化していません。その中で私は、特にインドの社会的企業の在り方について研究をしています。
 どのような企業も社会問題に取り組む際、様々な難題に直面しますが、社会的企業は、特にファイナンスやヒューマンリソースが大きな問題になっています。お金が無いため人を雇う事が難しくなります。このような状況の中で、社会的企業の起業家は「これらの難題に対して、どのような人とのコネクションを使って解決するのか?」などを考えています。このような、企業間のソーシャルネットワークに一番興味があり、現在はインドの事例をいくつか使って研究をしています。

 

▽研究分野の魅力は何ですか?
 先ほども少しお話したように、「社会的企業論」という学問は、1990年代に生まれた割と新しい分野です。そのため、あまり研究が進んでなく、リサーチギャップなどがあります。その中でも、研究が進んでいる地域はヨーロッパで、アジア、特にインドやベトナムなどはまだまだ研究されていません。しかし、国によって問題は違っても、世界中どこでも社会問題は存在します。つまり、研究が進んでいない地域であっても、実際は活動している社会的起業家もいます。彼らは、政治、経済、文化的な枠組みの中で活動しているので、様々なイノベーション(革新)が生まれます。その活動に影響を受けた他の起業家からも、より新しいビジネスモデルが生まれます。それは、国などを越えてシェアされ、多くの地域での社会問題解決に繋がります。そのような繋がりや流れが魅力だと思います。

 

▽研究を志すようになったきっかけは何ですか?
 私は元々研究者になるとは思っていませんでした。私は事例的な研究が好きなので、博士号の時は、栃木県のある町の焼き物の産業集積の事例を挙げて研究をしていました。ですが、研究者になりたいとは思っていなかったので、博士号の次の進路には悩み、とりあえず他の大学の研究員として在籍しようと考えました。その時に東日本大震災が起き、地震の影響による、政治や経済などの変化について研究したいと思うようになりました。
東日本大震災は大変ショックな出来事でしたし、栃木県は東北にとても近いので、町全体がとても大きな被害を受けてしまいました。私が研究していた焼き物の産業集積でも、窯が壊れる、店が甚大な被害を受けるなど、とても大変な状況の中で約1年半研究をしました。
ですが、研究をすると、地震が町に及ぼした影響は甚大な被害だけでなく、地震をきっかけに町の繋がりが一層強まった事も分かりました。日本漢字能力検定協会が発表した2011年の「今年の漢字」が『絆』だったように、人と人、企業と企業、起業家と起業家など、様々な繋がりが強くなり、町を再興しようとする動きが大きくなりました。その動きに伴い、様々なNPOも生まれました。地域の人々は町の問題を解決するために、NPOと協力したり、NPOを通して活動したりするようになりました。
この「大きな自然災害をきっかけに人々や地域の繋がりは強くなり、社会的な資本が増加した」という研究結果は、私のお気に入りです。このような研究成果が出た事から、私は社会的資本やソーシャルネットワークに注目するようになり、今の私の研究に繋がったと思います。

 

▽今後の研究目標は何ですか?
 現在2つの研究テーマに力を入れています。
1つ目は、COVID-19は今日(取材日:2020年)の世界に大きな衝撃を与えました。そして、この影響が社会的企業にどのような影響を及ぼすかについて研究をしています。
COVID-19の感染拡大防止のため様々な国はロックダウンを行いました。私の研究地域のインドは2020年3月25日から国全体がロックダウンされ、ヒトやモノの動きが止まりました。ヒトやモノが止まると、食品の運用やロジスティックも止まります。特に困ったのは生鮮食品で、サプライチェーンは大変混乱しました。
具体的に言うと、野菜や果物が消費者まで届かなくなり、大きなフードロスになりました。「フードロス」も社会問題の一つです。この社会問題を解決するために社会的起業家たちは、今までは大きな関わりが無かった、生鮮食品のサプライチェーンに入り、オンラインで商品を消費者に届けられるように活動を始めました。社会的な企業は混乱してしまったサプライチェーンの回復に大きな役割を果たしたことも見えてます。このように、インドにおける生鮮食品のサプライチェーンに入った社会的企業や社会的起業家に注目しています。
2つ目は、COVID-19の影響でインドの遠隔地の社会的資本がどのように変化したのかという事を研究しています。
私は今まで社会的資本についての調査は日本で行っていたため、インドでほとんどやった事がありませんでした。ですが今は、日本で研究していたノウハウを使い、インドで社会的資本の増減や強弱についての研究を行っています。国によって、質問や質問の仕方が変わる事や、言語の問題などが発生する事などをとても面白く思います。