▽日本とタイの王室の違い

 ところで、日本の天皇は何をやっていると思いますか?

 

学生ライター:被災地を回ったりとか、外国の王室の方々と食事されたりとかですか?

 

 確かにそうですね。宮内庁のホームページを見ると、天皇がやられている事は2つあるのではないかと感じます。

 1つ目は「喜ぶこと」、2つ目は「悲しむこと」です。前者は、たとえばオリンピックで日本人選手が勝った時、国民とともに「喜ぶ」。後者は災害などがあった時、国民とともに「悲しむ」。要するに、「国民みんなが喜ぶときに一緒に喜び、悲しい時に一緒に悲しむ」という事です。もちろん天皇が務めねばならない行事や儀式などもありますが、この2つは天皇の大切な務めのように思います。実際、現上皇が譲位する際のスピーチでも、「国民と共に」という事を意識してきたと話されていました。国民と一緒に喜んだり悲しんだりしている人を、国民が批判の対象にするというのは考えにくいですね。

 

 個人的なエピソードをお話ししましょう。随分昔に秋篠宮ご夫妻と同じ飛行機に乗り合わせたことがありました。私はタイ人を何人か連れて九州に出張していて、たまたま東京に戻る飛行機に、ご夫妻も乗られたのです。一般乗客が全員席に着いた後、ご夫妻が機内に入り通路の前に現れたとき、何が起きたと思いますか。君が乗客だったらどうしますか。

 

学生ライター:驚いて固まってしまうと思います(笑)

 

 乗客は拍手をしたのです。そしたらご夫妻はお辞儀をしたんです。その時タイ人の同行者はひどく驚いていました(笑)。

 まずタイでは王族と同じ飛行機に乗る事などあり得ない。たとえ他に飛行機がなくてそういうことになったとしても、王族の方が立っていて私たちが座っている事も、拍手をするなどもあり得ないと。それにお辞儀をするのは王族ではなく我々だ、というわけです。確かにそうだなと思いました。

 

 前天皇ご夫妻が私の娘が通う保育園に来た事もありました。お二人はこどもの日に、保育園を訪ね子どもと交流する事をずっと続けておられていて、それでたまたま娘が通っている保育園に来たわけです。私の妻(タイ人)が見に行ったのですが、やはり見物に来ていたお母さんたちが、園庭の垣根の外から、甲高い声で、「てんのう へいか~」と、あたかもアイドルに呼びかけるような声で呼びかけたそうです。

 

 私の現ゼミ生に「天皇の存在」に対してどんなイメージを持っているか聞くと、「遠い存在でよく分からない。でも、隣にいたら普通にお話してしまいそう」と話していました。飛行機で思わず拍手してしまうような感覚を、今の若者も持っているんだなと感じました。皇室や政府がどこまで意識してやっているかは分かりませんが、日本ではそういう雰囲気が作られているんだと思います。

 

 一方タイはどうでしょう。国民とともに喜んだり悲しんだりする事に留まらず、政治的な安定機能を果たしたり、価値観を語ったりする事によって、国王、とくにラーマ9世王は尊敬されて非常に高いところまで上りました。しかし、王室の安定性という点ではどうでしょうか。

 王室というのは日本とタイだけでなく、いろいろな国にあります。中には廃止してしまった国もあり、国王を殺してしまった国もあります。日本もタイも王室から権力を奪った時代がありました。日本でいえば、徳川時代とか。タイなら立憲革命の後とか。でも両方とも、王室というものを廃止せずに今に至っています。どうしてでしょうね。王室制度というものが、国家や社会の中でもつ意味を考えて見るとおもしろいかもしれません。

 

 

▽タイの王室について起きていることを学ぶ上で、おすすめの文献はありますか?

 立憲革命については、村嶋英治『現代アジアの肖像 9:ピブーン―独立タイ王国の立憲革命』岩波書店、1996年がお勧めです。立憲革命前後の歴史が、大河ドラマのように描かれています。

 その後のタイ経済と政治の流れについては、末廣昭『タイ―開発と民主主義』岩波新書、1993年を読むとよいでしょう。政治・社会・経済がどう相互に関係しあいながら一国の発展をもたらしてきたのかよく分かります。

 近年のタイにおける政治混乱については、私がアジア経済研究所のウェブマガジンに書いたものがあるので、読んでみてください。重冨真一「タイの政治混乱―その歴史的地位」(2010年)。その続編は「続くタイの政治混乱:あぶり出された真の対立軸」(2020年)。

 

 

<重冨先生関連の記事>

研究内容紹介 

 https://yisa.main.jp/dw/?p=192

重冨ゼミ校外実習座談会

 https://yisa.main.jp/dw/?p=983

重冨ゼミ所属 【私にとっての国際学部】戸林美羽さん 

 https://yisa.main.jp/dw/?p=1722

 

 

〇重冨 真一(しげとみ しんいち)国際学科教授

地域社会開発論、住民組織論、一次産品論

京都大学農学部農林経済学科卒業後、同大学農学研究科農林経済学専攻博士課程単位取得満期退学。京都大学にて経済学の博士号取得。日本貿易振興機構アジア経済研究所主任調査研究員などを経て、2015年、明治学院大学国際学部国際学科に着任。

著書に、『タイ農村の開発と住民組織』(アジア経済研究所、1996年)、『The State and NGOs: Perspective from Asia』(共著)(ISEAS, 2002)などがある。