現在の研究分野は何ですか?

 現在の研究分野は主に2つあって、1つが「軍事活動と環境」というテーマです。たとえば、厚木基地の軍用機による騒音問題や辺野古基地の移設問題などの軍事活動に関連して起こる環境問題で、政治経済学の立場から研究しています。

 2つ目は「社会的金融」というテーマです。あまり馴染みのない言葉ですが、こういうことです。銀行などの金融機関がお金を貸す時は、儲かるところに貸すような利潤や私益を求める金融が一般的です。

 一方で、NPOや環境保全団体にもお金は必要ですが、普通の金融原理だとお金は回りません。このように、普通の金融原理ではお金が回らない公益になるような活動に対してお金を回すためにはどうすればよいのかというのが社会的金融です。教育や芸術、有機農業といった分野にお金をどうしたら回せるのかという研究をしています。

 

 

研究分野の魅力は何ですか?

 魅力的な人に出会えるところです。軍事活動と環境の分野では、米軍や国に反対する方と会って話す機会があります。そういった方たちは、自分のためだけに反対運動をしているのではなく、基地周辺の人や将来世代のことを考えて活動しています。このような人たちと話すことができるのが魅力です。

 社会的金融の研究では、新しいことや環境保全に対して「何かしよう」という人にお金を融資したり、寄附したりすることが仕事の社会的金融機関と関わります。そのなかで、色々な新しいことに取り組もうとしている人と多く出会えることが魅力だと思います。

 

 

この研究分野を志した理由は何ですか?

 軍事と環境に関しては、修士課程の時に当時の指導教官と行ったフィリピンでの調査がきっかけでした。フィリピンでは米軍基地が返還され、その後市民が移り住んだのですが、井戸水が汚染されていて健康被害が出ていました。医師のように何かをその場ですぐできるわけではなく、帰国後に何ができるのかを考えました。

 結局、直接フィリピンの被害者たちのために何かできたというわけではありませんが、日本でも同じような問題を抱えている人がいる中で、修士課程の2年間で自分でもこの問題に関連して何かできることがありそうだと感じ、研究を続けています。

 社会的金融に関しては、ルドルフ・シュタイナー(1861~1925)が書いた本が好きだったことが研究のきっかけになっています。シュタイナーが影響を与え始められた諸々の取り組みのうちの何かを研究したいなと思いました。金融という分野が専門にしてきた経済学に1番近かったことと、この分野のシュタイナーの取り組みを日本で紹介している人があまりいなかったので、やってみる価値があると思いました。

 

 

今後の研究目標は何ですか?

 しばらくの間は主にお金に関することをやっていきたいと思っています。お金が回らない中で小規模に有機農業を行っている農家や有機農家が作っている野菜を使ってその地域でレストランを開いているような人たちに対してどういう形でお金を回せるか、小規模有機農業やそれに関連する人たちをどう支援できるかに関心があります。

 また、アメリカのスローマネーという取り組みやシュタイナーとの関係で調査していたドイツの団体の取り組みを中心に調べて2 、3年でまとめられたらと思っています。

 研究とは別の話になりますが、戸塚で地域の人や学生を巻き込んで自分の研究テーマと関連することで何かできないかと考えています。カーシェアリングや自転車シェアリング、地域通貨などきっかけがあればやってみたいです。

 

 

学生時代はどんな学生でしたか?

 教職科目を履修していた関係で1、2年生は授業でほとんど埋まっていたということもあり、3年生の初めまであまり人と関わりがありませんでした。3年の初めに学園祭の実行委員だった友人を手伝ったり、ゼミナール協議会というそれぞれのゼミの代表が集まって話し合いをする場に出るようになったりするなかで、他の人と話すようになったり遊ぶようになりました。大学を卒業して十数年経った今でも、何人かの友人と会っています。

 明治学院大学の学生には面白い学生が多いと思っているので、みなさんも生涯付き合っていけるような友人を大学時代に作れたらよいのではないかと思っています。

 

 

学生の間に読むべきオススメの本は何ですか?

 読みやすいのはミヒャエル・エンデ(1929-1995)の『モモ』です。私は修士課程の時に『モモ』を読んで興味深かったので、エンデが書いた本をほぼ全て集めて読みました。

 その中で、シュタイナーという人の影響があったことを知り、自分が面白いと思った人がどういう人に影響を受けたのかに関心をもち、シュタイナーの本も読み漁るようになりました。

 その中で一番薦めたいのは『自由の哲学』で(なかなか読みこなすのが難しい本ではありますが)、シュタイナーの自由論が書かれています。リベラルアーツには、もともとは自由になる技法という意味があるそうです。そういう意味でいうと、明治学院大学に在籍している間に「自由」の意味を深く考えてもらいたいなと思っています。

(取材日:2018/10/26)

 

 

〇林 公則(はやし きみのり)国際学科准教授

公害・環境問題と経済活動/軍事環境問題

高崎経済大学経済学部経済学科卒業。一橋大学経済学研究科応用経済専攻修士課程、博士課程修了。経済学博士。早稲田大学アジア太平洋研究科日本学術振興会特別研究員や一橋大学経済学研究科特任講師を経て2018年から明治学院大学国際学部国際学科。

著書には『新・贈与論』や『軍事環境問題の政治経済学』など。