現在アメリカのニューヨークに住んでいる清水香里氏にLGBTI(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・インターセックス(半陰陽)のこと。性的マイノリティ)に関するコラムを執筆して頂きました。

「NY在住の日本人から見たLGBTI」

<「NY在住の日本人から見た#MeToo運動」はこちら

 

▽私の周辺社会でのLGBTI

ニューヨーク(以下NY)はLGBTIにオープンな街です。自国で肩身の狭い思いをしている当事者たちが世界中から集まって来るため、街では手を繋いで歩いている同性カップルを老若男女人種問わず多く見かけます。またLGBTIをビジネスツールの一環として使い、ビジネスに成功している当事者も沢山います。

マンハッタンの左下に位置するグリニッジ・ヴィレッジ(Greenwich Village)は、LGBTI、とりわけゲイを多く見る地区です。当地に行けばレインボーフラッグを掲げた店が林立しているのを見ることができるでしょう。グリニッジには、後にプライドムーブメントの発端となる「ストーンウォールの反乱」が起こった、「ストーンウォール・イン(The Stonewall Inn)」という歴史的なバーがあり、現在も営業中です。

Greenwich Village

greenwich village

ストーンウォールの反乱が起こった当時、LGBTIに対する社会的圧力はまだ強く、彼らの逮捕・拘束に繋がるような政策がまかり通っている時代でした。しかしそれに対する抵抗運動がなされることもなく、当事者は息を殺して生きていました。

1969年6月28日、ゲイの溜まり場となっていたストーンウォール・インへ警察がいつものように踏み込み捜査に入ったところ、居合わせた当事者らが真っ向から立ち向い、暴動となりました。

それをきっかけにゲイライツムーブメントが全米に広がり、現在では当該バーはNational Monument(国定史跡)に指定され、街自体もLGBTの聖地と化しています。当然、プライドパレードもこの地を中心としてルートが組まれます。グリニッジでレインボーフラッグを掲げているお店を多数見るのには、そんな歴史的背景があるのです。

The Stonewall Inn

stonewall inn

また、逆境に立ち向かう力か、はたまた性別を超えた価値観を持ち得るからなのか、彼らの中にはビジネスで成功を収める人も多く、当地では数多くの名店が生み出されて来ました。

今やグリニッジ周辺は、LGBTとは関係なく、世界屈指のお洒落エリアとして観光客にも人気の街となっています。レインボーフラッグを掲げている店は、単にLGBTIウェルカムの店というだけでなく、センスの良い店というイメージにも繋がっており、転じて、LGBTIの当事者、またはLGBTIに理解があるということは、時にはビジネスを好転させるためのツールにさえなり得ているのです。

 

 

▽NYにおけるプライドパレード

私はストレート(異性愛者、ヘテロセクシュアル)ですが、NYのプライドパレードは見に行きます。同パレードは今や、LGBTI当事者だけでなく、銀行や役所なども含めた各種企業も山車を出す、NYCの一大イベントとなっています。

開催に当たっては知事が演説を行いますし、パレードのために警察が出動し、広く道が封鎖されます。交通渋滞を避けるためにも、公共広告やテレビなどで事前に大掛かりな告知がなされます。6月の最後の日曜日にマンハッタンにいらっしゃる方は、プライドパレードの通行止めに巻き込まれますので、あらかじめ充分お気をつけくださいね。

 

私が過去のパレードを観て感じたことは、自由さと、それと、意外にもLGBTIの中にも派閥があること。プライドパレードでは、美しく着飾ったドラァグ・クイーンや普段着のゲイ、レズビアンだけでなく、上半身裸で男性の格好をしているレズビアン、1970年当時からの参加者と思われる老人グループ、国旗を背負い、政治的アピールも行う各国代表のグループなど、多種多様な人々がのびのびとパレードを楽しんでいる様を間近に見ることができ、観覧だけでもワクワクします。

大企業は小さなギフトを撒きながら練り歩くので、お土産を貰えたりもして楽しいです。そんな中、上半身裸のレズビアングループはとある蔑称で呼ばれ、異色扱いされていること、また、見目麗しいゲイだけが特に話しかけられ投げキッスされるなど、それぞれのSOGI(性指向・性自認)のあり方などによって、LGBTI内の独自カーストがあることにも気が付きました。

2019年で、ストーンウォールの反乱からちょうど半世紀を迎えます。プライドパレードはその翌年から始まったので、来年でもう49年。恐らく当初は人類愛的な、参加者が結束したパレードだったのではないかと思いますが、歴史を重ねるにつれて色々な様相が産まれてきたんだなと、興味深く思いました。

日本のプライドパレードを見に行ったことはありませんが、パレードに参加することは、まだまだ政治的アピールというか、権利主張の意味合いが強いのではないかと思います。いずれ、パレードの様相が画一的ではなくなる頃に、LGBTIの存在も特別なものではなくなるのかもしれませんね。

2016年のゲイパレードの様子

プライドパレード

プライドパレード

 

○清水香里(しみず かおり)

2003年入学(竹尾ゼミ)

ゼミでは比較文化を専攻。卒論テーマは身近に主眼を置き、戦前世代と戦後世代における価値観(男尊女卑を中心としたジェンダー感覚、衛生観念等)の相違に関して研究。卒業後は専門学校でグラフィックデザインを学び、表現の道へ。現在は渡米しニュージャージー在住。妻であり母。