現在アメリカのニューヨークに住んでいる清水香里氏に #MeToo運動 に関するコラムを執筆して頂きました。
「NY在住の日本人から見た#MeToo運動」
<「NY在住の日本人から見たLGBTI」はこちら>
▽私の周辺社会でのジェンダー差
アメリカ、特にNYにおいてジェンダー差の存在と性差別の是正は二律背反ではありません。それぞれは共存し合っています。性差別是正が促進される一方で、所謂「ジェントルマン文化」の様なものはいい面で根強く残っています。また、人々はジェンダー差があることを前提で生きている様にも見えます。
例えば、女性はボディーコンシャス(身体のスタイルが強調される様)な服を着て、長い髪と胸とお尻を強調し、セクシーさをアピールしながら街中を歩いています。
また、それを好む男性も多く、そういった女性がいると振り向いて口笛を鳴らす人も多く見受けられます。日本では比較的身体のラインが見え難い服を着る傾向がありますよね?日本人は見た目よりも性格を重要視する文化ですが、服装一つとっても男女差を強調する文化がNYでは見られます。
また、働き方においては日本と比べ比較的多くの女性が管理職に就いています。女性起業家も多く、ビジネス面におけるジェンダー差はさほど見受けられません。
▽メディアと#Me Too運動
NYにおいて#Me Too運動(セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有)のデモは其処彼処で起こっている運動という訳ではありません。
むしろ日常を過ごす分には#Me Too運動のデモの現場は見ないので、SNS以外では注意深く追っていかないと一種の「流行り」の様にも思えてしまいます。
類似の運動でブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)というのが2013年にありました。これはトレイボン・マーティン射殺事件というフロリダ州で黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警官のジョージ・ジマーマンに射殺された事件をきっかけに加熱したものです。SNS上で「#BlackLivesMatter」というハッシュタグが拡散されましたが、#Me Too運動はそれに近いムーブメントの様に感じます。
私の周辺では#Me Too運動に乗っかった人はいませんでしたが、ハリウッドスターの様な芸能人の多くは女性の権利に関して言及していました。それが理由か、リベラル派のテレビ番組でも#Me Too運動はトピックとして取り上げられていました。
ただ、日本で取り上げられている程、#Me Too運動と中間選挙の連関はさほどないのではないでしょうか。日本では女性議員の選出や#Me Too運動と中間選挙を関連付けて報道していますが、むしろ中間選挙は個々の議員の政策云々よりも、もっと抽象的な「民主党か共和党か」という選択だった様に思えます。
ただ、トランプが当選したことによってアメリカ国内において隠れトランプ支持者の存在とリベラル派への嫌悪感が露呈しました。NYはリベラル派が多いですが、NYから10分橋を渡ったニュージャージーでも隠れトランプ支持者は多くいます。実際に私の住んでいるアパートメントの隣人にも共和党支持者が多くいます。
例えば「オバマは低所得者の味方ばかりして、中間層の私たちには何のメリットもない」と発言するその人も、普段は共和党支持者であることは噯(おくび)にも出しません。
NYは特にリベラル派の方がクールだというイメージがあるので、隠れトランプ支持者は想像よりも多いと思います。彼らは敬虔なプロテスタントなのでリベラル派の政策に反発している様です(キリスト教の影響を受けた欧米諸国では伝統的に、同性愛は聖書において指弾される性的逸脱であり、宗教上の罪としてきた。旧約聖書では創造神ヤハウェは、男と女が結ばれるべきだと命令している)。
日本だと性的マイノリティへの政策やジェンダー格差是正を促すリベラル派がネットでは叩かれがちですが、アメリカではむしろ共和党支持者が叩かれる風潮があります。言い出せない人が多いのですね。そういった点で見ると、NYにおいて「本当」にジェンダー格差や性的マイノリティに理解がある社会を追求するのは時間が掛かると言えるかもしれません。
○清水香里(しみずかおり)
2003年入学(竹尾ゼミ)
ゼミでは比較文化、とりわけ身近な文化に主眼を置いて祖父母世代と若者世代の価値観(男尊女卑を中心としたジェンダー感覚、衛生観念)の相違に関して研究。卒業後はアートの道に進み画廊への就職やグラフィックアートの専門学校に進学。卒業後、渡米し現在ニューヨーク在住。