▽留学してからヨーロッパに興味を持たれましたか?
大学での勉強は最初19世紀のフランス文学を研究していました。フランス革命(1789~1799)後に共和国が成立し、対外戦争もありましたが、現代的にいうと高度成長期に時期を迎えて、フランスが膨張し拡張する時期でした。
1860年代にパリは大改造されて、現代に見られるようなオペラ座やプティパレ等の巨大建造物の多くはその時代にできています。それ以前のパリとは異なる都市化が進行し、新しい街ができ、それらを今僕らはパリの景観として楽しんでいます。
しかし当時のフランスの詩人、小説家の多くはパリの改造には批判的でした。もともとあったものを壊して、新しいものを作り出そうというディレンマにとらわれた時代でした。こうした新しい時代の到来を前の時代とのコントラストとして描く作家の作品を学んでいました。それがきっかけで日本やアジアの近代化を見直すべきだと考えました。
ヨーロッパから遅れてアジア、また発展途上国に近代化の波が伝わって、そういう社会が変化して行く様、何が残って何が新しくなるのかを、人々の生活の立場から見たくて、伝統的な祭りや信仰の変化などの文化変容に関心を持って来ました。
▽学生の頃はどのような学生でしたか?
漠然と研究者になりたいとは思っていました。かといって明確にこのテーマで研究するというのがあった訳ではありませんでした。それで、当時は休学して3年生の時にフランスに行きました。学部から行く人はなかなかいませんでした。研究一筋というわけではなかったですが、文学に触れていたいと思ったのです。
大学院では一日中本を読んで過ごしても、誰からも文句を言われない。朝から晩までフランスの小説読んだりしました。あれは楽しかったですね。主人公がポジティブな小説なのでスタンダール(1782~1842)は読むと元気が出ます。だんだん読むリズムが出来上がって、快楽になるんです。
好きだとこんなに楽しいのに終わらないで欲しいということ皆ありますよね?こんな経験をなんとか持続させたいとか、自分の職業に結びつけたいという気持ちが湧きました。当時勉強していた京都では大学を中心に学際的でユニークな知識人がたくさんいたのでそれも刺激的でした。
▽竹尾先生は国際学部発足当時(1986年)からいらっしゃいますが、その頃はどの様な様子でしたか?
僕はその時30くらいだったのですが、その時お世話になった先生方が国際学部設立のブレーンでした。明学に新しい学部を作ろうという動きがあり「国際学部にはユニークなもの作りたいね」と5、6人で学部の構想を練っていたのです。
今もある三つの学問領域の柱、経済・政治・文化まで一緒に統合して教えようという学部はなかなかなかったので、どのようにカリキュラムを作るかとか、どんな人が教えるか、どんな学生を集めるかなど、あれこれ相談して固めていきました(国際学部は日本で初めて「国際学部」という名称を持った学部として誕生しました。
以後、同名の学部も増え、「国際〇〇学部」という名称の学部は、ほとんどの大学にあるほどです)。どの社会の問題でも政治・経済・文化の側面が絡み合っているので、学際的なアプローチができるような教育が必要だと考えました。
とりわけ地域研究では複合的かつ総合的なアプローチが必須だろうという視点です。フィールドスタディやインターンシップを通じて国内外を問わずに、地域社会に接近するとはどういうことなのかを学生さんに伝えたいです。
▽学生の間に読んでおいたほうがいいオススメの一冊は何ですか?
加藤周一の『羊の歌』(岩波新書)です。加藤周一は元々東京大学(旧東京帝国大学)医学部の卒業なのですが、当時医療先進国であったフランスに免疫学の研究をしに留学します。
しかし、文化の最先端の思想や文学、芸術に接して、帰国後には詩作や文学評論に興味を持ち医者をやめてしまうのです。彼は、戦後の日本人の中の最大の知識人の一人だと思います。一度だけは、国際学部のUCセミナーで話してもらった事があります。僕も2階ですれ違いましたが、あまりに眩しくて話しかけられませんでした。
この『羊の歌』は、彼が60歳を超えた頃に回想的に書いた、戦前の生い立ちからフランスに留学していた時のことや戦後の活動などを総括的にまとめたものです。自身の経歴に即していますが、日本社会が戦争を挟んで何を求めて来たのか、また何を実現できなかったのかということを問うものです。社会の中で、知識人はどう生きるべきか、ということを考えた本なのです。
(取材日:2018/11/01)
○竹尾 茂樹(たけお しげき)国際学科教授
沖縄・台湾の比較文化/祭・芸能・島おこし
関西学院大学文学研究科博士課程単位取得後満期退学。1985年から明治学院大学に赴任し 、国際学部の創立メンバーの1人。現在の専門分野は、比較文化、東北アジア地域研究(沖縄、台湾の先住民族)や、国民国家とエスニック文化の関係などである。国際学部学部長を歴任。
著書に、『国なき民族の様々な声(共著)』や、『沖縄、日本への復帰、統合、自立のナラティブ(共著)』、『台湾原住民は、激動の百年をどのように生き抜いてきたのかー菊池一隆「台湾原住民オーラルヒストリー」』などがある。
