▽学部生時代の様子を教えてください。

 学部生時代は、ものを何も知らない輩の典型で、自分は何でも知っていると思い込んでいました。自分が無知であるということに全く気がつかず、これほど傲慢な人間はいませんという具合です。

当時の自分と、今の私は出会いたくない。出会っても「こいつは話にならないやつだ」ときっと思うに違いありません。それほど、愚かな人間でした。また、思想的にも保守的でナショナリスティックでした。

だその一方で、学生生活はクラブ活動に明け暮れ、有意とはいわないまでも、楽しく毎日を過ごしていた記憶はあります。今から思い出すと戯画的でもあるのですが、クラブ活動における友人との交わりは、涙や笑い、怒り、恨み、友情、恋愛といった様々な感情にまみれた、稚拙だけれど青春そのものの濃密なものだったと思います。

 

 

▽どのようにして変わっていったのですか?

 身体が頑強であったら、無知で傲慢なまま年を重ねることなったかもしれません。それはそれで情けないけれども一人の人間の一生には違いないでしょうが、今振り返れば幸いなことに身体が弱かったおかげで大学院に入り、大学院に入ると本を読んだり考えたりする時間が格段にできました。読書をしたり、思索を重ねると学部生時代の自分が恥ずかしくなってきて、過去を否定したいような感情が高まりました。

 物事をじっくり考える時間ができたおかげで、傲慢な自分をそのままにしておけなくなっていったのです(少しずつですが)。大学院に行けばみな変わるというわけではありませんが、結果的に当時とは違う考え方が自分の中で膨らんでくることになりました。

 私は今も変わらず無知ですが、自分が無知であるということを自覚できるくらいにはなっていると思います。皮肉なことに、といっていいのかわかりませんが、30代の初めに大学の教員になってしばらくすると、呼吸器の疾患がウソのように落ち着いてきて、今はほとんどなんの問題もなくなってしまいました。でも、もう研究者の魅力に取り憑かれているので、歩み損ねた道をたどり直そうという気持ちはまったく湧いてきません。

 

 

▽学生の間に読むべきおすすめの本を教えてください

 「学生の間のみ」という訳ではありませんが、私の好きな本は渡辺京二(1930~)の『黒船前夜~ロシア・アイヌ・日本の三国志』と『逝きし世の面影』です。分厚いので読みにくいと思いますが、これはすごくいい本です。もし、本を読む意欲がある人であれば私はおすすめします。ちょっと読んですぐ終わらせられるという本ではないので、それなりに腰をすえないと読めないですがとてもいい本です。

 

詳細はコラムで>>

「渡辺京二著『黒船前夜~ロシア・アイヌ・日本の三国志〜』と国際法との関連

渡辺京二著『逝きし世の面影』とこれからの国際法

 

 

▽今後の研究の目標は?

 研究というのは楽しいんですよね。『逝きし世の面影』で書かれていることともつながるかもしれませんが、仕事であって仕事でない、私にとって研究とはそんな感じのものです。比喩を使って説明すると、こうなります。

あるテーマの研究を始めると、とたんに霧がかかったように視界が悪くなり、気持ちが塞ぐのですが、ある瞬間に突如その霧が晴れ、視界がとても鮮明になります。でも、瞬きをした瞬間にまた濃霧が立ち込める。

それでも前に進んでいくと、またある瞬間に霧が晴れたようになる。おそらく研究しているほとんどの時間帯は「快適」からほど遠い濃霧の中にあるのですが、時折、天から何かが降臨してくるように霧が晴れる瞬間があり、それが本当に快感なのです。個人的にはその瞬間を求めて研究しているところもあります。

その一方で、より大きな目標としては、少しでも「世のため人のため」になる研究成果を出したいと考えています。とくに、社会的に弱い立場に追い込まれている人たちに役立つ法的成果を出したいのです。それが常に目標。だから、私の場合、既存の支配的秩序に疑義を唱える研究成果がほとんどなのです。

 難民に関しては日本は難民の受け入れに厳しく、日本の国際法の研究者たちも難民の受け入れに消極的な人が多いようなので、そのような状況の中で難民に優しい国に日本を変えていければと思います。また、人権を真に必要としている人たちの人権がきちんと保障される世界の構築に貢献できる国連の仕組みを作っていきたいというのが目標です。

(取材日:2018/11/06)

 

 

〇阿部 浩己(あべ こうき)国際学科教授

難民の国際的保護,人権の国際的保障,国際法における植民地主義

早稲田大学法学部卒業後、同大学大学院法学研究科博士課程修了・博士後期課程単位取得満期退学。米バージニア大学法科大学院修了。1990年から3年間富山国際大学人文学部で専任講師。1993年から神奈川大学法学部で助教授を6年間、教授を5年間歴任。2004年から14年間大学院法務研究科教授として教鞭をとり、その間、カナダ・ヨーク大学難民学センターで客員研究員を務め、早稲田大学で博士(法学)を取得。2018年に明治学院大学国際学科に着任。法務省難民審査参与員および川崎市人権施策推進協議会ヘイトスピーチ部会長。

主な著書に『国際法を物語る』『国際法の暴力超えて』『国際法の人権化』『無国籍の情景』『国際人権法を地域社会に生かす』『国際社会における人権』『国際人権の地平』『人権の国際化』『抗う思想/平和を創る力』『戦争の克服』(共著)『テキストブック国際人権法』(共著)などがある。